9番 法輪寺 ―生きとるもんは、生きとるように―
法輪寺の特色は、「わらじ」だ。
境内で、小さなわらじ(500円)を買って奉納すると、
足腰が強くなるといわれているのだ。
小さくて、とてもかわいいので、奉納するものとは別に、
おみやげとして買って帰られる方もたくさんいらっしゃるのだとか。
八十八ヵ所、まだ9つ目の札所。
これからの旅がうまくいくよう、祈りを込めて、奉納した。
本堂の写真を撮っていると、
ベンチに座っていたおじいさんに、手招きをされる。
写真なんか撮って、怒られるんかなあ・・・と、
おそるおそる近づいていくと、
「あのな、あそこの、トイレの入り口のところあるやろ?
あそこから撮ると、本堂も大師堂も、両方きれいに撮れるんぞ」と、
シャッターを押すベストスポットを教えてくださった。
アドバイスにしたがって、撮った写真がこちら。
もともと、写真が苦手なので、アドバイスどおり撮影しても
いい写真にならないのが残念なところだが、
しかし確かに、本堂も大師堂も、ばっちり映っている(感謝)。
その方は、近くにお住まいで、毎日お参りにこられているのだとか。
「まいひにきよんよ(=毎日来ているんです)」と、
独特の方言で話されるのが印象的だった。
長野さんが「なぜ毎日おまいりをしよん?」とたずねると、
「昔、ここに助けてもろてな。(見える山を指差して)
あの高い山よりも高いところからころげてな、それで助かったんよ。
それできよるんじゃ」と答えてくださった。
これこれ、と指差したその方の額を見ると、
その落下事故でついたのであろう、
五センチ強の大きな傷痕が、まっすぐにはしっていた。
昔、俳句をつくっていたこともあったそうだ。
「生きとるもんは、生きとるように詠むんよ」。
私たちにそう告げて、帰っていった。
生きとるもんは、生きとるように詠むんよ。
心の中で繰り返すたびに、その言葉が、
水に溶けていくインクのように、
からだに馴染んでいく気がした。
木の影に祈る人ありいわし雲 紗希