11番 藤井寺 ―藤の奥の、木陰の奥の―
藤井寺で見ておくべきなのは、
山門を入ってすぐの藤棚と、本堂の竜天井だそうだ。
この時期、藤たちは、立派な実をつけていた。
花の季節にきたら、きっと、藤の高貴なむらさき色に、
圧倒されるのだろうなあと想像される、立派な藤棚だ。
そんな藤棚に関係して、このようなかわいらしいおまもりもあった。
この八十八ヵ所を回ることに決まったとき、一番不安だったのは、
果たして、88ものお寺を、別々の記事として書き分けることなど
できるのだろうか、ということだった。
けれど、それは杞憂というものだった。
実際にまわってみると、それぞれのお寺で、
ほんとうにたくさんの特色があるということを実感する。
本堂や大師堂だけでなく、お庭の作り方や咲かせている花、
寺の由来となる伝説やそれを模したお守りなどのグッズまで、
さまざまな個性が存在している。
そんな個性を、すいも甘いもかみ分けて、
長野さんは、私たちに教えてくれる。
写真は、藤井寺の住職さんに、
お寺の魅力を聞いてくださっている長野さん。
初めてまわる、知識も乏しい私たちに、
水平な態度でいろいろ教えてくれて、
とにかくありがたい。
お寺の方との会話、美味しいお店、
これまでに出会ってきたお遍路さんのエピソード。
ガイドマップには書いていない、
なまの知識に触れられることが、とても貴重だ。
このお寺からは、歩き遍路さんのための道がのびている。
次の焼山寺まで、何もない山道を、
歩き遍路の方は、ただひたすら歩いていくのだそうだ。
早い人で五時間、普通だと六時間はかかる道のりだという。
昔から、その道のりを歩き続けてきた人たちの祈りの深さを思うとき、
木々に覆われている遍路道が、いっそう翳りを濃くして見える。
竜胆に触れきし膝を折り祈る 紗希