37番 岩本寺 ―三度、実をつける栗―
岩本寺に向かう途中、よこなみスカイラインという道を通った。
「このへんは、別荘も多いんよ。」といいながら、
長野さんが車を止めてくださったのは、
土佐湾が一望できる、絶景ポイント。
よくパンフレットの写真を撮るのにも利用される場所なのだとか。
水平線が、視界におさまりきらないほどに、ひらけたところだった。
「きれい」とか「すごい」とかいう言葉では、
ぜんぜん足りないと思った。
「岩本寺の次に向かう足摺岬が、ほら、あそこに見えるでしょ」。
長野さんの指差す先に目を凝らすと、うっすらと半島が見えた。
遠くかすんで、なんだか幻のようだった。
岩本寺には、いくつもの見所がある。
本堂の絵天井は、地元の人を中心に、
プロアマ問わず、みんなが描いた絵で出来ている。
また、ここのお寺は、いくつかのお寺をまとめて出来ているそうで、
ご本尊が、普通はひとつのところ、五体もある。
八十八ヵ所めぐりでは、そのお寺のご本尊の真言を
三度繰り返して唱えることになっているので、
このお寺では、5×3のご真言が必要になる。
中でも珍しいのは、境内斜め向かいにある、三度栗。
その昔、このお寺の栗の木をとるために、
子どもたちが集まっていた。
しかし、その輪から外れている子がいたので、
お大師さまが声をかけると、
「栗が少ないから、僕の分までまわってこないんだ。
もう少し栗がたくさんなってくれたらなあ・・・」と言った。
そこで、お大師さまが、年に三回、
栗が実をつけるようにしてくれたのだという。
今でも、実際に、三回、実をつけるのだそうだ。
いくつかの木の中にあって見つけにくいが、
確かに栗の木があった。
山門の手前の和菓子屋では、栗のシーズンに、
この三度栗にちなんだおまんじゅうを売っているのだという。
「いつからですか?」と聞いてみたら、
「あと一週間くらいしたら・・・九月に入ったらね」ということだった。
ニアミスで残念だったけれど、またの機会にチャレンジしたい。
膝閉じて眠る子どもや栗の花 紗希
(神野紗希 記)