39番 延光寺 ―いぶきの木が見てきたもの―
38番札所の金剛福寺がある足摺岬から、
四万十川を横目に、車で一時間。
車内でうつらうつらしている間に、延光寺に到着する。
高知県で最後の札所だ。
山門をくぐるとき、やけに視線を感じるので、上を見上げてみた。
ぎろりとこちらを見る、山門の木彫。
寝ぼけていた眼が、ぱっと目覚めた。
延光寺は、赤亀が屯所をしょってやってきたといういわれがある。
境内には、山門を出てすぐのところに、その赤亀の像が置かれていた。
意外とリアルな亀の顔に、徳島の日和佐の海亀センターで見た、
海亀たちを思い出したりもする。
さて、延光寺には、眼洗い井戸なるものがある。
この井戸に湧く水で、まぶたを洗うと、
眼病にご利益があるのだそうだ。
私は、今のところ、視力もいいし、特に困ったところもないが、
パソコンを長時間触ると、やはり疲れ目になるので、
試してみることにした。
柄杓にとった水をまぶたにつけると、思ったよりも冷たくて、
また、目の覚めた思いがした(どれだけ眠かったのか)。
帰り際、駐車場の傍に、
「樹齢500年いぶきの木 天然記念物」の看板。
その指す方向には、立派な古木がたっていた。
500年とは、一体、どのくらいの時間なのだろうか。
私たちが生きているのが、せいぜい80年。
私など、まだ26年しか知らない。
いぶきの木が見てきたものを、私はどれだけ、
この生の中で知ることができるのだろうか。
決していいものばかりでないのは分かっているが、
それでも、できるかぎりのことを知りたいと思った。
いぶきの木の年月の蓄積に、私の小ささを思う時間でもあった。
かなかなや古木は舟のかたちして 紗希
(神野紗希 記)