49番 浄土寺 ―祈りを刻む場所―
2010年2月12日 09:45
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このお寺は、踊り念仏で有名な空也上人が、
数年間、滞在したことで知られている。
山門をくぐろうとすると、長野さんが、
「この仁王さんを見てごらん」と指をさす。
どの山門にも、阿吽の仁王像が祀られてあるので、
何の変哲もないように見えた。
しかし、この仁王像、実は去年まで、
眼がくりぬかれて、なかったそうなのだ。
昔、博打うちの人が、大負けしたときに、
「(いい)目が出るように(=博打で儲けられるように)」
ということで、阿吽の「阿」のほうの仁王像の目を抜いて、
もってかえってしまったのだという。
それからずっと、阿の仁王像には眼が入っていなかったのだが、
去年ようやく、あたらしい眼をつくったのだとか。
心無い人もいるものだけれど、眼を取り戻した仁王像は、
より力強く、意思をもったものに見える。
また、本堂の厨子には、中世から江戸にかけての、
お遍路さんたちの落書きが、残っているのだという。
厨子の中のことなので、見ることはかなわないが、
確かに来たあという証を、残しておきたかったのだろうか。
私は、そうした証は、自分の心の中に、
しっかりと刻み付ければ、それでいいと思う。
巡礼は、お遍路は、祈りというのは、そういうものではないだろうか。
身を薄く木の間抜けたり揚羽蝶 紗希
(神野紗希 記)