私のお遍路体験記 ~八十八ヶ寺と奏でる私の詩~

83番 一宮寺 ―地獄の釜の音を聞く―

2010年5月 9日 20:33 記事一覧に戻る

 

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「ここは、地獄の釜の音が聞こえる祠があるんよ」と、

おどろおどろしげに言う、長野さん。

 

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この祠には、意地悪ばあさんを改心させたといういわれがある。

 

そのおばあさんは、お種ばあさんという名前で、

とても意地悪な人だった。

そんなお種ばあさんに、近所の人が、

「地獄の釜の煮えたぎる音が聞こえる祠があって、

悪いことをしたひとがこの祠に頭を入れると、

扉がしまって抜けなくなる」といった。

 

おばあさんは、そんなことがあるわけないと、祠に首を差し入れた。

そうすると、扉がばたんとしまって、

本当に、首が抜けなくなってしまった。

 

ごおーっという音は怖いし、

助からなかったらどうしようと思うしで、

おばあさんは、どうしようもなくなって、許しを乞うた。

すると、扉はひらいて、無事に出られたという。

それから、お種ばあさんは、改心して、

とてもいいおばあさんになった、という話だ。

 

 

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「見本を見せてあげよう。狭いからね、

こういう風にしたら聞こえるんよ・・・」と、

祠に半身を差し入れる長野さん。

「うん、今日も、聞こえる聞こえる」。

 

一体、どんな音が聞こえるのだろう。

見た目は、ほんとうに小さな祠だ。

顔を差し入れて中を見てみても、どこに空洞があるわけでもない。

 

 

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耳を済ませると、底のほうから、たしかに、

「こぉーっ」とも、「くわくわくわ・・・」ともいう、

何か不思議な音が聞こえてきた。

それが、だんだん「ごぼごぼごぼ・・・」という深い音に変わっていく。

 

音が鳴る理由もわからないし、なんだか怖くなって、

祠から顔を出したら、まぶしい木漏れ日が、私の目を射った。

お種ばあさんも、この日の光のまぶしさを見て、

心底喜んだだろうと思った

 

私は、あとどのくらい悪いことをしたら、

この祠に首を挟まれてしまうのだろう。

まだまだ余裕があるかもしれないし、あとちょっとなのかもしれない。

 

 

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祈る人のくちびる動く白露かな  紗希