85番 八栗寺 ―自分への厳しさ―
タクシーを運転しながら、
「ここは、ケーブルカーに乗っていくよ」と長野さん。
「次に出るのは9時20分だから、それに間に合わせようか。
20分おきに出とるから、急がなくってもいいけどね。大丈夫?」
札所へ行くケーブルカーの時間までおさえているとは、
おそるべし、長野さん。
でも、長野さんに言わせれば、百回以上まわれば、
自然と覚えてしまうのだという。
お寺の山門や大師堂を見ただけで、
88のお寺のどこのものか、すぐに分かるそうだ。
まったくの初心者である私たちには、本当に心強い先達だった。
なんなく間に合ったケーブルカーには、たくさんの人が乗っていた。
みんなお遍路さんかなと思っていたら、そうでもないらしい。
この八栗寺の境内には、商売繁盛の神様である歓喜天が祀られていて、
商売をしている人が、よくお参りにくるのだという。
特に、その日は、縁起がよいとされている日で、
月参りに来る人がたくさんいたのだ。
八栗寺の名前の由来は、お大師さまが唐に留学する前に、
仏教の勉強がきちんとできるかどうか願をかけて、
焼き栗を八つ植えていったら、戻ってきたときに、
すべてが成長して葉を茂らせていた説話からきている。
地元の人は「八栗のお聖天さん」
(ご本尊が聖観世音菩薩なので、お聖天さん)と呼んで、
親しんでいるという。
「ただの栗じゃなくて、焼いた栗を埋めていくところが、
自分に厳しいよね」と、る理ちゃん。まさに。
境内には、お寺の方が撮った写真が飾られていた。
季節季節の八栗寺の様子が、その写真の中にはあった。
紅葉、雪、桜・・・どの頃に来ても、
うつくしい景色をみることができるようだ。
私たちが訪れた頃には、紫陽花が咲いていた。
山の冷気の中で、花弁のむらさきが、より一層、澄んで見えた。
涼しさや羽虫よぎれる日矢の幅 紗希
(神野紗希 記)