3番 金泉寺 ―泉の映す顔―
2009年10月18日 17:00
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八十八ヵ所のお寺の名前には、それぞれ意味がある。
たとえば「焼山寺」は、大蛇が火を吐いて山を焼いた伝説から、
「仏木寺」は、お大師さまが楠から仏を掘り出した逸話から、
その名がつけられているのだ。
この「金泉寺」は、水不足で悩む住民の声を聞き、
お大師さまがその杖で井戸を掘ったところ、
みごと霊水が湧き出たという伝説に、その名の由来があるという。
ただの泉ではなく「金」と掲げるところが、
井戸水がどれほど嬉しいものであったかを物語っている。
この泉を覗き込んで、水面に顔が映ると、
長生きをするといわれている(映らないと、短命なのだとか)。
そこで、さっそく、二人で、覗き込んでみた。
映画「ローマの休日」で、グレゴリーペックとアンが、
真実の口に手を入れるときの、そんな心境...。
...どうやら、短命という運命をつきつけられることはなかったようだ。
ただの水鏡だと思ってしまえばそこまでだけれど、
顔が映りこむことに長命のしるしをみるという
前向きな考え方に、私は賛成したい。
このように、心の持ちようで世界はどのようにも変わるということは、
もしかしたら、八十八ヵ所めぐりの教えてくれる、
ひとつの大きな真理なのかもしれない。
帰り際、山門のすぐ手前に、
石と石の隙間から生えている草を見つけた。
こんな狭い隙間にも、命がたしかに根を張っていることの心強さ。
この草も、金泉寺の水の力で、強くなれたのかもしれない。
見えざりき泉の映す表情は 紗希
(神野紗希 記)