21番 太龍寺 ―すこし空に近い場所―
日程表を見ると、鶴林寺と、ここ太龍寺の間に、
「ロープウェイ」の文字が。
あれ?今日は、観光も予定にあるの?
いや、そうではなかった。太龍寺は、山の上にあるのだ。
ロープウェイは、お寺まで行く、手段なのだった。
そんな高い険しい山の奥にあるお寺だなんて・・・
昔の人は、どんなにか苦労して参拝しただろうと、
及ばない想像をしてみる。
今でも、歩き遍路の中には、ロープウェイをつかわずに、
本来の遍路道を歩いてこられる方がいらっしゃるそうだ。
「今でも難所なんですよ」と、車内アナウンスのお姉さん。
所要時間は、およそ十分。
那珂川が見え、山林にさしかかり、
途中には、山頂に建てられた弘法大師像を見ることもできた。
ここのロープウェイには、景色に加えて、
ある驚きがかくされている。
そう、足元に、下が見えるようになっている場所があるのだ。
高いところが苦手な私は、おそるおそる下を覗き込んだが、
網の目が細かかったので、よく見えるわりには、
恐怖感が少なく、安心した。
運のいいときには、森の中に、
鹿がいるのを見つけることもできるらしい。
山頂の空気は気持ちよく、吸うたびに、
からだの中の粒子がきれいなものに入れ替わっていくようだった。
お寺は、立派な造りだったし、
納経所のとなりには、竜天井の有名な建物もあった。
杉の木たちも年季がはいっていて、
太い幹が並んでいるのが圧巻だった。
戻りのロープウェイは、私たちの貸切状態。
いろんな場所から、景色を見ることができた。
乗る前にいただいた、お接待のきのこ茶も、
きのこのスープのようで、
山の冷気にひやされた体をあたためてくれた。
杉と杉ぶつからず立つ白露かな 紗希
(神野紗希 記)