27番 神峯寺 ―霊水と呼ぶ気持ち―
「ここから、ちょっと揺れるからねえ、気をつけてねえ」と、長野さん。
そこから、厳しい蛇行の道路が続く。
車にも、土地にも、慣れていないと、攻略できそうにない道だ。
前のお寺が海辺だったからか、
高いところへ登っていくという感じが強い。
「車用の道路は蛇行しとるけれどね、遍路道はね、
まっすぐの険しい道のりなんよ」。
江戸時代に書かれた『四国蠕ァ礼霊場記』には、
「幽径の九十九折が続き、黒髪も黄色くなってしまう」と、
その道のりの苦しさが記されている。
「でも、この道は、春になると、ずっと桜のトンネルになるんよ。
ほんとうにきれいなんよ」。
長野さんは、その景色を思い出しているように、
笑顔を浮かべて言った。
神峯寺は、なんといっても、「神峯の水」という霊水が有名らしい。
バスツアーのお遍路さんの列に混じって、早速お水をいただいてみた。
石のくぼんだところに、水が勢いよく流れ出てくる。
汲んだひしゃくにくちびるをつけると、ひんやりとつめたい。
水しぶきが、顔に飛んでくるのも、涼しい。
ずっと昔から、あの厳しい坂をあがってきたお遍路さんが、
この水を飲んでいたのだろう。
渇ききった喉を潤されたとき、
「霊水」と感謝したくなる気持ちが、分かる気がした。
庭園も、美しく整えられていて、目を楽しませてくれるし、
坂をあがってくる途中には、
お参りをして脊椎カリエスが治った人を顕彰する碑がある。
山頂にある、大きなお寺という印象だった。
帰り道、同じ道路を蛇行して戻りながら、
春、桜のトンネルをまた見に来たいと思った。
夏山に読経の声を置き去りに 紗希
(神野紗希 記)