57番 栄福寺 ―長寿を呼ぶパワー―
栄福寺には、「おかげ話」がある。
おかげ話とは、こういうことをしたおかげで、
このようにご利益があったという、伝え話のことだ。
そんなに昔の出来事ではなく、
明治や昭和になってからのことが多いという。
このお寺に、あるとき、足の不自由な男の人が、お参りにきた。
歩けないので、小さな籠に、車輪をつけて、
犬にひかせてやってきたらしい。
お寺についたとき、犬は、
きっとのどがかわいていたのだろう、
水のあるところへ、一目散に走った。
それで、男の人は、籠から落ちて、こけてしまった。
ところが、転んだはずみで、
なんと歩けるようになったのだという。
昭和8年の出来事だ。
当時、男の人は、まだ十五歳くらいの少年だったというから、
もしかしたら、まだどこかでお元気でいらっしゃるかもしれない。
そのときに乗ってきた籠が、本堂の左側に祀られている。
目の前に、確かに籠が存在することが、
おかげ話のなまなましさを強めている。
また、栄福寺には、長寿お守り手拭というものもある。
昔から、八十八歳の米寿の人のものを持つと、
長生きするといわれているらしく、
この手拭の絵を描いたのが八十八歳の人だったことから、
この手ぬぐいが、長寿のお守りになったそうだ。
文字が読めない人のために、般若心経を、
わかりやすく絵で説明してくれている。
はじめは、釜を逆にして、「まか」。
「はんにゃ」ははんにゃのお面、「はら」は太ったおなか。
字が読めないことを、ユーモアでもって超えていく。
そのプラスのパワーが、長寿につながっていくのだろう。
こかげひなたこかげひなたと秋の蝶 紗希
(神野紗希 記)