67番 大興寺 ―ようお参りです―
境内に入ると、まず、かたちのよい松が目に入る。
近づいてみると、札が下がっている。三鈷の松だ。
三鈷の松の「三鈷」とは、仏具の名前だ。
お大師さまが、唐での修行を終えて、
この三鈷を、日本に向かって投げた。
すると、帰国してから、高野山の松の木に、
引っかかっているのが見つかった。
それで、お大師さまは、高野山を聖地とすることに決めたという。
普通、松葉は、二本で一対だが、
この松は、三本で一対になっている。
木の下には、箱がおいてあって、松の落ち葉が入れられていた。
お守りになるので、ぜひ持ち帰ってくださいとのことだ。
私も、一組、いただいて帰った。
長野さんからは、
「大きいものは、持ち歩きにくいから、
小さいものを選ぶといいよ」とアドバイス。
もうひとつ。大興寺には、七日燈明がある。
直径5センチほどある赤い蝋燭に、
願い事を書いて、奉納する。
すると、燃え終わるまでの七日間、
本堂で燃やし続けてくれるのだ。
このお寺の本尊は、薬師如来さまなので、
特に健康に関するお願いが多いという。
本堂の中には、いろいろな丈の赤い蝋燭が、
それぞれの炎を燃やし続けていた。
燃やし始めた日が違うので、
おのずと丈がまちまちになる。
これらの蝋燭の丈が、そのまま祈りの丈だと思った。
健康というと、父が定期検査でひっかかっていたことを思い出した。
まあ大事はないだろうと思いつつ、
「父の体に何もありませんように」
といった内容を書いて、奉納した。
これだけで、気持ちがずいぶんと軽くなったのだから、
気がつかないところで、心配は募っていたということなのだろう。
石段を下る途中、境内の木々に
ホースで水を撒いているおじいさんがいた。
こんにちはと声をかけると、
「こんにちは、ようお参りです」と言ってくれた。
「ようお参りです」は、
お遍路さんへかける独特の挨拶のひとつなのだろう、
これまでも、何度かそう声をかけられた。
やさしい言葉だ。
疲れているお遍路さんを、言葉がいたわってくれる。
木に触れててのひら厚し初嵐 紗希